1. オフショアに関する意識調査結果から
少し古くなりますが、IPAの調査データに次のようなものがあります。IPA (Information technology Promotion Agency) がオフショアに関してIT企業に出したアンケートの結果です。調査Aでは、70%以上が「現在より拡大したい」と言っており、調査Bでは、「70%以上が予定なし」と答えています。
まったく相反するような結果が出ていますが、実はこれ、調査Aは既にオフショアを実施している企業からの回答であり、調査Bは過去に一度もオフショアを実施したことがない企業からの回答なのです。
一概には言えませんが、オフショアで開発を経験した企業はそのメリットを享受し、さらに利益を求めて拡大へと向かい、経験したことがない企業は、実感としてメリットを捉えることができないためにさらにオフショア実施に対して消極的になってしまっているという構図がうかがえます。
2. オフショアを始める前に何をする必要があるか?
このように経験したことがない企業が、オフショアを検討し始める際には当然のごとく不安が付きまとうことになります。また、何も考えずにオフショアを始めたのでは、過去の失敗事例同様の結末になりかねません。オフショアでの開発は、少なからずリスクが存在します。ここでは、リスクに対する不安を少しでも和らげるために、何をすれば良いかについて紹介します。オフショアを始める前には、最低でも次のことはやっておきましょう。
- 目的を明確にする
- 概要を理解する
- オフショアの事例を研究する
- オフショア先(国)候補を決める
2.1 目的を明確にする
まず、オフショアの目的を明確にしておきましょう。目的により、オフショアの進め方、オフショア先が違ってきます。目的としては次のようなものが考えられます。
- コスト削減
人件費の低い国での労働力を活用し、開発予算を抑えます
- 人材不足解消
日本国内での人材不足解消の手段を海外に求めます
- スキル導入
自社に技術スキルがなく、即時にそのスキルを導入したい場合に活用します
2.2 概要を理解する
次に、オフショアの契約形態とそのフォーメーションについて理解しておきましょう。大きく分けると受託開発型とラボ型の二つに分類することができます。
- 受託開発型
オフショア側に納品責任が有る、日本で一般的に採用されているものと同様の契約モデルです。事前に決められた仕様、期間、金額通りにシステムを納品することでプロジェクトが完了します。現地とブリッジSEを窓口にして開発を進めます。
- ラボ型開発
同ーのオフショアチームを一定期間、一定予算で抱え込んで開発を進めるやり方です。お客様は、ブリッジSEを通して、或いは直接オフショア側のチームに指示を与えます。
3. オフショアの事例を研究する
目的がはっきりして、オフショアの概要を理解したら、次に他部門・他社のいろいろな事例について研究するとよいでしょう。先達が残してくれた事例は、失敗しないための貴重な財産になります。事例については、インターネットを検索しても、すぐにたくさんの成功事例、失敗事例を見つけることができます。その事例から、注意点やリスクを自分で読み取ることはとても役に立つでしょう。
4. オフショア先(国)を決める
どの国で、どの会社でやるのかを決めることは、とても重要かつ難しいことです。まずは、国を決めて、次にオフショア企業を選定する流れが自然でしょう。国の選定については、次のようなパラメータを使って比較することをお勧めします。
- インフラ
インターネット、電力、交通などの整備状況です
- 立地
日本からの距離、直行便の有無、時差等の情報です
- 文化・国民性
集団主義か個人主義、何を大事にするか(仕事と家族)、親日度などの情報です
- コスト
現在の賃金状況と合わせてGDP推移も調べましょう
- 国策(IT、税金)
その国のIT産業に対する姿勢、施策は非常に重要です。税制面での優遇措置についても調べておきましょう。
5. 開始前に一番大事なことは?
色々な調査をして、Goがかかる段階になっても、本当にオフショアを始めて大丈夫かという不安は拭い切れないと思います。これを解消する手段として一番お勧めしたいのは、ちょっと無理をしてでも実際に現場を見るということです。「百聞は一見にしかず」です。現場を見ないとわからないことが必ずあるはずです。現地のオフショア企業に赴き、開発現場のエンジニアたちと直に話すことにより、きっと見えてくる何かがあると思います。現地のエンジニアたちの熱い思いをあなたの仕事の中にどう生かせるかが浮かんでくるかもしれません。
時折、日本の企業を訪問して、オフショアをおすすめすることがありますが、今でも驚くような反応をされる方もいます。「ベトナムって大丈夫なんですか?」、「ミャンマーは危険ではありませんか?」などを聞いたことがあります。こういう方が、あなたの会社にもいないとは限りません。こういった方々を説得し、オフショアを始めるには現地からの生のレポートが一番ですね。